遺言の撤回

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高齢化社会の我が国において、“終活”という言葉が広がりをみせてから、早10年程が経過しました(2010年の新語・流行語大賞で初ノミネート、2012年の新語・流行語大賞でトップテンに選出)。終活の一環として、個人の財産の帰属先を生前の遺言者の意思によって決定する遺言制度は益々活用されていくものと思われます。今回は、一度作成した遺言を「やはり考え直したい」という際の遺言の撤回について解説します。


Q1、そもそも一度作成した遺言を撤回することは可能なのでしょうか。
A1、
 遺言を撤回することは可能です。

民法第1022条は「遺言者は、いつでも、遺言の方式(※)に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と規定し、遺言撤回の自由を認めています。


民法第967条
 
遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない、とされています。
 民法第968条
 自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文・氏名・日付を自書して、これに押印するという方式の遺言です。自書(要するに手書き)が必要ですので、ワープロやパソコンで作成することはできません。ただし、遺言書に添付する財産目録については、すべてのページに自書による署名および押印をしてあれば、パソコンで作成したり、預貯金通帳のコピーや不動産登記事項証明書をもって代えることができます。


Q2、遺言で甲土地の相続先として指定した長男との間で、「遺言の通り絶対に土地を相続させる。撤回はしない。」と約束してしまいました。このような場合でも遺言の撤回は可能でしょうか。
A2、
 遺言を撤回することは可能です。
 民法第1026条は「遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。」と規定して、遺言者の遺言撤回の自由を守るために、遺言の撤回権は放棄できないものとしています。長男との間の約束は遺言の撤回権放棄の合意ですので、合意自体が無効となります。


Q3、既に作成した遺言を撤回したいと思い、遺言書に記載のある受益者全員に対し、「自分が○年△月□日に作成した遺言を撤回する」旨の手紙を送りました。遺言は無事撤回されたことになるでしょうか。
A3、
 遺言は撤回されておらず、有効です。
 遺言の撤回は「遺言の方式に従って」行わなければなりません(民法第1022条)。そのため、ご質問のケースでは、たとえ遺言の受益者全員が撤回の意思を承知していたとしても、「遺言の方式」によらない以上、遺言は撤回されておらず、有効です。
 なお、「遺言の方式」であれば撤回は可能であるため、例えば、前回の遺言は自筆証書遺言の方式で行ったが、撤回は公正証書遺言の方式で行ったという場合でも撤回は有効となります。


Q4、かつて作成した遺言書に「甲土地を長男に相続させる」と書いたものの、きちんと遺言を撤回するとは記載せずに、新しい遺言に「甲土地を次男に相続させる」と記載しました。先に作成した遺言は撤回されるのでしょうか。
A4、
 先に作成された遺言は撤回されているものとして扱われます。
 前の遺言と後の遺言が抵触(矛盾して両立しない)ときは前の遺言は撤回されたものとみなされます(民法第1023条1項)。ご質問のケースでは、同一の土地を2人に相続させることはできないため、前の遺言と後の遺言が抵触しており、前の遺言は撤回されたものとみなされます。


Q5、かつて作成した遺言書に「甲土地を長男に相続させる」と書いたものの、作成したのがかなり昔であったため、遺言書の存在を忘れて甲土地を次男に生前贈与してしまいました。かつて作成した遺言書の効力はどうなるのでしょうか。
A5、
 遺言は撤回されているものとして扱われます。
 遺言の内容が遺言を作成した後の生前処分と抵触するときも、前の遺言は撤回されたものとみなされます(民法第1023条2項)。また、その際の生前処分において遺言者が前の遺言を撤回する意思を有していなくても、生前処分の内容が遺言と客観的に抵触する限り、やはり遺言は撤回とみなされるものと考えられています。
 ご質問のケースでは、遺言者が遺言書の存在を失念しておりますが、遺言の内容と生前処分の内容が抵触するため、遺言は撤回されたものとみなされます。

 


 以上のように、遺言者が遺言の撤回を意図していても方式を具備していないと遺言の撤回が認められない場面がある反面、遺言者の行動によっては意図せずに遺言が撤回されたものとみなされてしまうことがある等、遺言の撤回には注意が必要です。

 人生の総括としての“終活”です。苦心を重ねて作成した遺言を台無しにしてしまわないよう、遺言の撤回について悩み事があれば、お気軽に弁護士にご相談ください。